多くの教訓を残す「潜水艦輸出」の失敗

トニー・アボット氏がオーストラリアの大統領で無くなった時点で、この話は終わっていたよ。

教訓多い潜水艦輸出の失敗

2016/5/9付
質が良ければ、必ず売れる。高い技術を誇る日本企業には多かれ少なかれ、こんな発想がある。ところが、世界の強豪がひしめく軍事ビジネスでは、品質だけでなく、相手国に売り込む戦略と努力が勝敗を分けることもある。
「質が良ければ必ず売れる」は間違いでは無い。ただ、これは単に質を高めるだけで商品が売れるという意味にカンチガイしてはダメだ。

客商売をするにあったって必要な事は、顧客のニーズを満たすことである。
だから、「質が良ければ」の主体が問題なのだ。この場合、主体が売り手ではそれは単なる自己満足かマスターベーションに過ぎない。主体は買い手であり、買い手にとって質が良いかどうかが問題なのだ。













ともあれ、この話を少し整理していきたいと思う。

オーストラリアが現在運用している潜水艦はコリンズ級6隻で、水中排水量は3,300t程度の通常動力潜水艦である。
1996年就役の比較的新しい潜水艦ではあるが、この潜水艦、潜水艦にあるまじき大きな欠点を持っていると言われている。それが「ロックバンド」と揶揄されるような騒音の大きさであり、通常任務にすら支障を来しかねないと言われているのだ。
こうした問題点や、遠海域での作戦遂行能力の向上などを含めて2030年辺りに新たな潜水艦獲得をしたいということで、オーストラリアの潜水艦更新計画は進められていた。


そこで、現時点でオーストラリアの要求仕様を満足している潜水艦は……?というと、実は日本のそうりゅう型とロシアのキロ型の2つしか存在していない。
そして、安倍氏のダイヤモンド防衛構想という話もあって、日本政府は前のめりになって潜水艦の販売を画策し始めたのである。

無論、冷静に見ると、日本のそうりゅう型とて問題が無い訳では無い。
実は、にほんのそうりゅう型は、スターリング機関という非大気依存推進(AIP)システムを積んでいるのだが、これが非常に場所を取る。つまり、水中排水量4000tもある潜水艦にもかかわらず、武器の搭載量は多くないし、潜水艦内もかなり狭いのである。
実際に、日本としてもリチウムイオン電池を搭載したそうりゅう型改と呼ぶべき潜水艦の建造計画があり、これがSS-511と呼ばれて平成27年度計画に浮上している。


そうそう、サーチナで面白い記事があったので紹介しよう。

日本の潜水艦が豪州に選ばれなかったのは「技術不足だ」=中国報道

2016-05-09 19:58
 オーストラリアの次期潜水艦の共同開発事業において、日本は「そうりゅう型」潜水艦をもとにした開発計画を提案した。前評判では日本の提案が受注の確率が高いとされていたが、実際に蓋を開けてみると受注したのはフランスだった。
~~中略~~
 性能の高さを売りにしていた日本の「そうりゅう」は、ドイツTKMSの「216型」潜水艦及びフランスDCNSの「シュフラン級」との比較にさらされ、「地金が出た」と記事は表現。地金が出たとはつまり、性能が見劣りすることが明らかになったという主張だ。


サーチナと言うよりも支那の「人民網」というメディアが日本の「そうりゅう」の性能を貶しており、それをサーチナが紹介するというスタンスの記事である。
一方の冒頭に紹介した日経の記事はこうだ。
 スクリュー音が小さく、長い時間潜ることができる「そうりゅう型」の技術は世界最高水準であり、品質で負けたわけではない。
 敗因のひとつは、現地生産や技術移転への取り組みにあった。今夏の総選挙をにらみ、豪州のターンブル首相は国内の雇用を重視していた。仏はこの点を踏まえ、12隻すべてを現地で生産することにしたという。
性能で負けたのでは無くセールスで負けたのだというのである。


なかなか面白い対比だが、僕は寧ろサーチナ側の分析の方を支持したい。
確かに、「そうりゅう型」は現時点で運用可能な通常動力潜水艦で水中排水量4000t以上を誇る優秀な潜水艦ではある。
が、それは、日本の海上自衛隊が運用して初めて発揮しうる性能であり、他国の要求仕様を満足しなければ何の意味も無い。
そして、オーストラリア海軍の要求は「コリンズ級以上に大型の通常動力潜水艦」であり、「遠海域での作戦遂行能力」を持っており、「オーストラリアの望む作戦が遂行可能である」というものの様だ。この辺りはハッキリ開示されていないために、日本もフランスもドイツも仕様を把握するのに苦労したと言われている。
 もうひとつの敗因は受注に向けた体制の違いだ。仏企業は豪州法人のトップに、国防省にパイプがあるオーストラリア人を起用し、豪州政府への売り込みに力を入れたという。豪州側がどんな計画を望んでいるのか、フランスは早く把握できたとみられる。
その点で、一つ頭抜けていたのがフランスだった模様。


と言うわけで、日本経済新聞の記事が主張する「日本の潜水艦の質は高い」「日本はフランスにセールスで負けた」という2点は、間違いでは無いにしろ、暴論だと思うのである。
「質も問題だったね」という点は、やはり反省点として挙げるべきだと思うのだ。

現状のそうりゅう型ではオーストラリア海軍の要求仕様を満足できなかった可能性が高く、それでもロシア製を除いて最もオーストラリア海軍の要求仕様に近かったのは事実。
そして、問題はオーストラリア政府の要求である「雇用の確保」の点でも、日本は相手を上回ることができなかったのだと思われる。


また、こんなニュースもあった。

フランス選定でも結局批判 中国「安保にマイナス」 豪州を評価「日本と違う」

2016.4.27 12:23
 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は27日の社説で、米国と同盟関係にあるオーストラリアがフランスと次期潜水艦の共同開発を進めることに関し「米国の西太平洋戦略を後方から支える戦力になる可能性が非常に高く、中国の安全保障にとってマイナスだ」と批判した。
記事の要旨は、オーストラリアとフランスとが次期潜水艦の共同開発を選んだら支那が文句を言った。結局何処を選んでも支那は文句を言うねと言う話だが、ポイントはそこでは無い。
 一方、オーストラリアが最大の貿易相手国である中国を重視しているとして「『経済は中国、安保は米国』とバランスを取ろうと努力している。そこは日本と違う」と一定の評価をした。
日本は支那と敵対しているが、フランスは支那と敵対関係に無い。「まだマシ」と評されている。


つまり、日本政府のセールスについては政治的にも敗北したと言うことを意味している。
この点についてはこのブログでも散々指摘してきた。
良く言われる、「日本の虎の子技術の流出はあり得ない」という論調は、的ハズレでは無いにせよ、全面的に同意しかねる話でもある。
確かに潜水艦技術は虎の子技術であるし、何も最新鋭の技術を気前よくぽーんと渡す必要は無い。加えてバックに支那がいる話なのだから、情報漏洩に警戒すべきであるという点も理解できる。
そんなことは百も承知の上で敢えて安倍政権はオーストラリアとの連係強化の道を選び取ったのである。


もちろん、日本に現時点で輸出専用のモンキーモデル潜水艦があるとか、何らかの技術の漏洩防止措置があって、支那への技術流出は完璧に阻止できるとか、そうしたオプションがあればなおのこと良かっただろう。
だが、無い袖は振れぬのである。

そうした状況と天秤にかけた上で、トップセールスで潜水艦の売り込みをやっていたのだから、今回の一件の安倍政権の外交的敗北は明らかである。そして、セールスする上で重要な「顧客の要求を十分に把握する」という点に失敗したのは、他ならぬ日本政府でもある。

まあ、そうだとしても、僕は安倍政権だけを責める気にはなれないのだけれど。何故ならば、かつて防衛関連でここまで攻めの姿勢を見せた政権を他に知らないからだ。良い面も悪い面もあるのは事実だけれど。
いずれにせよ、今回の失敗は次回に生かせれば良い。ただし、「次回があれば」だけどね。
追記
何やら産経新聞がオーストラリアの軍人にインタビューしたそうな。

豪国防軍副司令官が単独会見 「仏提案採用の決め手は航続力」「ミサイル防衛で日本と協力」

2016.5.10 17:13
 オーストラリア国防軍のレイ・グリッグス副司令官(海軍中将)は10日、都内で産経新聞との単独インタビューに応じた。副司令官は、日独仏が参画を目指していた次期潜水艦の共同開発相手にフランス政府系造船会社DCNSを選定した理由について、「豪海軍が作戦海域まで極めて長距離を航行しなければならないという事情が検討要素として大きく作用した」と述べ、仏提案では長大な航続性能を見込めることが選定の最大理由の一つだったことを明らかにした。
航続性能……だと?

ふむ、しかし、シュフラン級原子力潜水艦は1番艦が2016年に就役する予定だが、こちらはあくまで原子力機関を持っている潜水艦である。
通常動力型は存在すらしていないのに、航続性能とはこれ如何に?
 仏提案は、同国のバラクーダ級攻撃原子力潜水艦(水中排水量5300トン)を通常動力型に改修する。改修型は「ショートフィン・バラクーダ」と呼ばれ、計12隻が豪南部アデレードで建造される。
どうやら、やはり原潜を将来的に獲得したいというオプションを残したという噂は本当っぽいな。
この海軍中将は「オーストラリア国内に原発が無いから無理」とか言っているが、原発があろうと無かろうと原潜を持つことは可能である。
寧ろ、原潜を選ばないという理由がよく分からないレベルではある。何しろ、オーストラリア海軍が守りたい海域は広大だ。だとすると……、アメリカに頼まなかった理由がよく分からないな。一体、オーストラリアは何がしたいというのか。

 
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コメント

  1. あるけむ(R.K.M) @fwbc19652016年5月10日 18:45

    「人民網」=「人民日報電子版」←中国共産党機関紙
    ということで、人民網による「そうりゅう級」の評価については、一部疑問がありますね。
    仏の「シュフラン級」は原潜なので、「そうりゅう級」との直接比較は問題があります。
    また、独の214級はそうりゅう級の半分程度のサイズなので、豪の要求仕様にあわない気がします。
    まあ、そうりゅう級のスターリング機関は、スウェーデン製(のライセンス生産品)なので、仏も技術導入は可能と考えてます。
    (そうりゅう級のすごい所は、他にもありますが)

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    1. あはは、そりゃそうですね。
      支那の機関誌の発言をまともに評価するということ自体がナンセンスではあります。

      ただ、「そうりゅう」は海上自衛隊の要求仕様を満足するのであって、オーストラリア海軍の要求仕様を満足するかは又別問題でしょう。

      色々な評価がありますが、214型は韓国でも散々やらかしてますから問題外(とはいえ、これは韓国国内の問題のような気がします。でも、濠太剌利も現地生産なので当然ながら同じ問題が発生しうるかと)として、フランスのシュフラン級もまだ机上の空論レベルの話。
      これに競り負けたというのは悔しい話ではありますが……。

      何れにしても、今後もなかなか興味深く見守るべき話ではありますね。

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  2. 将来的には原潜導入も視野に入れていたりして?


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    1. オーストラリアの原子力アレルギーも相当なものがありますから、果たして原潜が導入可能なのかどうかはよく分かりません。

      でも、原潜視野にという話であればフランス潜水艦が採用されたという話も分かりやすいですね。

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