2017年3月15日水曜日

自走砲を選べ!

面白いコメントを頂いたので、ちょっと丁寧にやってみたい。
あなたが今西側以外から自走砲を買わなければならなら、どのような選択をするのか?西側以外から
皆さんも考えてみて欲しい。



コメント頂いたのはこの記事だ。

最初に断っておくが、K-9が世界最強の自走砲であるという点に異論があるわけでは無い。ただし、お笑いの世界限定ではあるが。


で、命題は「西側以外から」とあるのだけれど、これはつまり「東側諸国のいずれかからチョイスしろ」という事なのだろうか?
加えて、「誰が」購入するかといった条件定義が無いので、なかなか思考実験をするのも難しい。

が、まあ、設定としては、「買うのは日本」であるという前提で考えてみたい。

なお、言わずと知れた「西側」は、アメリカを中心とする資本主義陣営の事を指し、「西側以外」となると、「東側」から買う事になる。

すると、選択肢は以下の通りだ。

東側陣営は、ロシア及び東ヨーロッパの衛星国を含む陣営である。
  • 2S19ムスタ-S 152mm自走榴弾砲:ロシア製
  • 2S7ピオン 203mm自走カノン砲:ロシア製
  • K9 155mm自走榴弾砲:韓国製
  • コクサン:北朝鮮製
  • 05式155mm自走榴弾砲:支那製
  • ズザナ 155mm自走榴弾砲:スロバキア製
指示通り東側陣営から選びたい。
ここで選ぶのであれば信頼と実績のロシア製2S19M2ムスタ-Sを選ぶのが妥当であろう。価格にしても装備数についても、ロシアで800両と数が多く、信頼と実績があると考えられる。

ただ、ロシアの兵器がどのように運用できるか?と考えると、なかなか悩ましい。規格から考え方まで全てが日本とは異なるからだ。


なお、支那の05式155mm自走榴弾砲は最も設計が新しいが、情報が殆ど出ていないのでチョイスするのは困難だ。日本が支那から兵器を買えるのか?と言う問題も当然ながらついて回る。

その他はお察しの性能なので論外と言うことになるな。


参考までに西側の自走砲についても言及していこう。
選択肢は以下の通りになる。
  • M1129 ストライカーMC自走迫撃砲:アメリカ製
  • M1128 ストライカーMGS装輪式自走砲:アメリカ製
  • M110 203mm自走榴弾砲:アメリカ製
  • M109A6 155mm自走榴弾砲:アメリカ製
  • M107 175mm自走カノン砲:アメリカ製
  • VCA155 155mm自走榴弾砲:アルゼンチン製
  • AS-90 155mm自走榴弾砲:イギリス製
  • ATOMS 2000 155mm榴弾砲搭載自走砲システム:イスラエル製
  • パルマリア 155mm自走榴弾砲:イタリア製
  • SSPH プリマス 155mm自走榴弾砲:シンガポール向けM109
  • アーチャー自走榴弾砲:スウェーデンとノルウェーで共同開発
  • カエサル 155mm自走榴弾砲:フランス製
  • AMX30 AuF1 155mm自走榴弾砲:フランス製
  • PzH2000自走榴弾砲:ドイツ製
  • 99式自走155mm榴弾砲:日本製
  • G6 155mm自走榴弾砲:南アフリカ共和国製
……南アフリカを西側に加えて良いかどうかは悩むが、性能としてはかなり良好である。ただ、日本が買うか?と言われるとこれはかなり微妙だ。

注:コメントを頂いて、候補から一部除外してあります。



仮に西側諸国からのチョイスだとすると、これまたなかなか難しい。
そもそも自走砲が使うシーンによって「万能」と言える性能を発揮するシロモノでは無い。あくまでもその軍隊の戦略に合わせて選択されるのが軍隊の兵器なので、運用に合わなければそもそも自走砲を選ぶ理由すら無い。

自走砲は、固定砲台と違って移動が可能であるが、戦車のような装甲性能を期待するものではない。また、回転砲台を備えるものは少ない。主に間接射撃を目的として備えられるものだからだ。
広義には、砲塔に移動手段が備えられていれば自走砲という括りになるので、対空射撃ができるのもあれば、ミサイルを備えたものもありと、バリエーションに富んでいるのも特徴だ。が、逆に言えば、各国の地形や戦略によって選択的にその能力が付加されるべきシロモノだとも言える。

それでも選べ、と言われれば、ここは日本なのだから日本製品を選ぶのが妥当だろう。次点でアメリカの兵器だろうか。自国の戦略・季候風土に合わせて作られた兵器だし、メンテナンスの上では常にアドバンテージがある。

なお、性能的にはドイツのPzH2000は捨てがたいが、選ぶのは難しい。理由は、高性能であるが故のメンテナンスの困難性と、重さかな。日本で運用するには重すぎる。



…えーっと、違う?違うの?
現実的な価格高性能 K-9 - 韓国 -1600台の大量生産と運用、輸出に低価格と低維持費、今後の部品の需給もの利点があり。
超高価格高性能 - PzH 2000 - ドイツ - あまりにも超高価格と超高維持費なので、自国も少量運用中。
高価格高性能 - AS90 - イギリス - 高価格と超高維持費なので、自国も少量運用中。
高価格低性能 - M-109 - 米国 - 低性能も高価格と高維持費なので、大砲後進国なので、淘汰武器、空爆戦術国なので発展の可能性なし。
超高価格低性能 - 99式自走炮 - 日本 - 低性能も超高価格と超高維持費なので、低性能エンジンで機動性最悪の山作戦は不可能、アルミニウム砲塔などに被弾防護脆弱、- 超高価格、超高価維持ヴィラ。自国だけ少量生産運用中。
ここから選べと?
 
しかし、挙げて頂いた兵器は、西側と東側の兵器がごちゃ混ぜで、その説明には主観的な意見しか並べられていない。これで選べというのは酷だろう。

では、それぞれの特徴について見ていこう。

コメントに挙げられている項目は、価格、維持費、運用数、だ。だが、維持費はそのデータを確認することは困難だし、価格が出ていないものもそれなりにあるしね。
また、砲の性能や走破性、メンテナンス製なども重要だと思われるので、その辺りまでは加味したい。

<PzH2000自走榴弾砲:ドイツ製>
価格:714万ユーロ(9億6390万円相当)1998年より配備開始
運用数:154両+輸出70+36+25+21+12+24両の見込み
仕様:最大射程30km以上、自動装填装置付き60発分の弾薬搭載可能、多数砲弾同時着弾(MRSI射撃)が可能。出力1000hpのV型8気筒ディーゼルエンジン+レンク社製HSWL248自動変速機による高い機動性を確保、圧延防弾鋼板を車体と砲塔の装甲に採用、即応射撃能力(戦闘準備時間は30秒だと言われる)と、1分間に8発、3分間に20発の連続射撃が可能。GPA2000砲照準・航法システムを搭載。ペリスコープ(潜望鏡)はライカ社製のRTNL80を搭載している。重量は55t。
メンテナンスに関しては、ドイツ製と言うことで些か気むずかしいと予想されるが、ドイツが責任を持って整備してくれる事を考慮すれば、西側諸国にとっては最良の選択肢だと言えよう。
 
<AS-90 155mm自走榴弾砲:イギリス製>
価格:167万ポンド(3億1844万円相当)1993年より運用開始
運用数:179両+ポーランド仕様80両(K9の台車にAS-90の砲塔を載せる予定)
仕様:最大射程30km以上、自動装填装置付き48発分の弾薬搭載可能、出力660hpのV型8気筒ディーゼルエンジン+ZF社製のLSG2000自動変速機を採用、圧延防弾鋼板を車体と砲塔の装甲に採用、1分間に6発の連続射撃が可能。ダイナミック照会装置や自動標準システムを採用で、高い射撃精度を備えている。重量は45t。
メンテナンスに関しては、パワーパックが1時間で交換可能な仕様である上、エンジンもカミンズ社製VTA903-T660を採用しており、これはアメリカのM2と共通である点で在庫も豊富であると思われる。油圧式サスペンションを採用していることで、メンテナンス性に難があると思われるが、即応射撃能力とトレードオフであるためにデメリットとまでは言えないと思われる。

<M109A6 155mm自走榴弾砲:アメリカ製>
価格:900万USドル(10億8000万円)1992年より採用
※900万USドルにソース無し、M109A7を66.5台+付帯設備調達するのに6億8800万USドルの契約をしたと言う報道がある。
運用数:960両+輸出30+1040+48+224両(注:M109A6にアップグレードされたものを含む。ただし、アップグレード計画やM109A7は含まないM109シリーズではこれまで1万両あまりが生産されている)
仕様:最大射程30km以上、半自動装填装置付き39発分の弾薬搭載可能、出力440hpのデトロイト・ディーゼル8V-71T LHR 2ストロークV型8気筒ディーゼルエンジンを採用、射撃準備時間は30秒で1分間に3発(最大8発)の連続射撃が可能である。GPS、射撃統制システムにAFCS XXIIが採用されている。重量は29t。重量的に装甲は重視されていないと思われる。
メンテナンスに関しては、M109シリーズが多数あるため、良好だと思われる。また、M109A7へのアップグレード計画が進行中であり、長期に渡って部品の確保は可能であると思われる。

<99式自走155mm榴弾砲:日本製>
価格:9億6000万円 1999年より調達開始
運用数:129両
仕様:最大射程30km以上、砲弾及び装薬の自動装填装置付き、出力600hp4ストローク直列6気筒ディーゼルエンジンを採用、最大で毎分6発以上、3分間で18発の連続射撃が可能である。射撃管制装置はFADACにデータリンク対応し、射撃指揮所の遠隔操作による自動標的、自動照準、自動装填、自動発射が可能である。重量は40t。
メンテナンスに関しては、少量生産品であるうえ、外国での使用を前提としていないので良くないと考えられる。そもそも現状では輸出できない。よって、外国で使用するというのは論外と言えよう。



<K9 155mm自走榴弾砲:韓国製>
韓国は既に東側の国なのだが、ここでは比較のために載せて置こう。

価格:37億ウォン(4億1070万円)1999年より調達開始。
運用数:300両+輸出300両(2020年までに)+48+12(予定)+120(予定:台車のみ)
仕様:最大射程30km以上、半自動装填装置付き(限りなく手動に近い)、出力1000hpのPzh2000と同じエンジンを搭載+米GM社のATDX1100-5A3を採用、サスペンションにはAS-90も採用している英HDS社製の高性能サスペンションを採用している。ただし、何れもライセンス生産だ。装甲は重要部は14.5mm徹甲弾の直撃を防御できるものを採用。射撃統制システムにより陣地侵入から60秒で射撃が開始でき、最初の3分は毎分6発を連続射撃可能としている。バースト射撃が可能でTOT(砲弾を同時に着弾させる)機能も備えている。重量は47t。
メンテナンスに関しては、外国の部品を多数使用しているが、ライセンス生産を韓国内で行っている事も考えあわせれば、良好であると考えられる。

注:ただし、これらのカタログスペックは十分に発揮されないことが延坪島砲撃事件(2010年11月23日)で実証されている。
注2:延坪島砲撃事件では現場近くで演習に参加した6門が現場に駆けつけたが、うち3門が故障し、初動で応戦できたのは3門だけ。故障したうち2門は電気系トラブルで1門は訓練の際の不発弾の影響で故障(wikiには砲弾の直撃を砲後方に置かれた装薬に着火した影響だとされている)して、復旧できた1門が参戦したという報道がある。
注3:K-9自走砲に用いられている部品の品質保証書類が偽造されていることが後に発覚している。



え?注意書きに悪意がある?
いや、だって、事実だし。

で、こうした条件を踏まえた上で考えれば、確かに高機能低価格のK-9自走砲を選ぶという選択肢はアリだ。カタログスペック詐欺がバレていなければ、或いは、品質保証書類の偽造が無ければ、考慮に値する可能性はある。
いや、価格差を考えれば、多少の問題点には目を瞑りたくなるのかもしれない。使える予算が決まっている上で、数を揃えたいと言う事になれば、安くてスペックが高く見えるK-9を買おうという話になるのも不思議では無いのだ。

……が、実戦を経て、その性能の半分も発揮できていない詐欺スペックが明らかになった今となっては、「多少の問題点」で済まされるのかどうかと言うのは疑問だな。信長の三段撃ち宜しく、次々と後退させれば良い、と言う考え方もあるのだろうが……。

加えて、「選ぶとしたら」という前提だが、日本にとっては韓国は反日を国是として掲げる危険な国なので、まさか兵器をそんな国から輸入するなんて事はあり得ない。どんなバックドアを仕込まれるか分からないからだ。


では、何故、「トルコ」「フィンランド」「ポーランド」といった国が購入に踏みきり、「インド」「エストニア」は購入を検討しているのか。或いは、「オーストラリア」が購入を検討した上で止めたのか?と言えば、ハッキリとしたことは分からない。

ご指摘頂いたように、これらの国の軍事担当者達は僕より遙かにこれらの兵器に詳しく、そして頭も良いのだろう。だが、購入に至っては政治的条件も加味される事になるため、「優れた兵器だから購入した」という風に短絡するのは間違いだ。
正しく、その国々で異なる事情があって、その条件に合致する兵器を選んだと言うだけに過ぎないのだから。




ランキングへの応援クリックよろしく!
にほんブログ村 ニュースブログ 時事ニュースへ

6 件のコメント :

  1. あるけむ(R.K.M)@fwbc19652017年3月17日 2:41

    >M1129 ストライカーMC自走迫撃砲:アメリカ製
    >M1128 ストライカーMGS装輪式自走砲
    迫撃砲は用途が違うので、外した方がよいかと。
    また、M1128は搭載砲が戦車砲で、間接射撃は出来ないので対象外ですね。
    (16式機動戦闘車が類似車両です)
    >M110 203mm自走榴弾砲:アメリカ製
    >M107 175mm自走カノン砲:アメリカ製
    米軍では引退済み、M110は陸自でも引退が近いので、対象にはなりにくいですね(M107は陸自未装備)。

    「帯に短し、たすきに長し」なので難しいですが、選ぶとしたら、
    装軌式なら、PzH2000自走榴弾砲または99式自走155mm榴弾砲、
    装輪式なら、アーチャー自走榴弾砲
    でしょうか。

    まず、弾薬の互換性を考えると、西側標準を選択するべきではないかと。
    なので、ロシア製は外れます。中国も怪しいので、パス。

    次に、装軌式か装輪式かで分かれます。
    機甲部隊や機械化歩兵部隊なら装軌式、装輪装甲車部隊なら装輪式でしょう。そして、射程と装填装置を考慮しました。

    装輪式は、防衛省が開発中の「装輪155mmりゅう弾砲(火力戦闘車)」を待つ選択もあると考えます。

    返信削除
    返信
    1. 参考になりました。
      ご指摘の点は、反映させた方が適切であろうとの結論に至ったため、消してあります。
      M110やM107は、可能性としてはあるでしょうから残しました。多分、モスボールにされているでしょうし。

      色々調べましたが、意外にアーチャーが優秀そうですね。
      装輪式は見直される風潮にあるようなので、装輪155mmも含めて、選択肢としてはアリかと思います。

      削除
  2. 元ネタになった「コメント」2件と木霊さんの自走砲に関する考査大変参考になりました。

    しかし、書き込まれた方はどこの方かは判りませんがK国は「すでに西側」でないと考えているようですね。
    なんとなく・・・納得してしまいました。
    であれば・・・カタログスペックだけ優秀な兵器類を沢山装備して頂いた方が日本の為には良いのかなと考えます。(脅威度が下がりますから)
    頑張って中国にも輸出して欲しいものですが、中国もそこまで粋狂ではないですね、少々残念(笑)

    返信削除
    返信
    1. まあ、コメントは誤記だとは思いますが、何とも皮肉な話ですよね。

      カタログスペック山盛りの産廃、と言う話であれば良いのですが、残念ながら利用価値はありそうです。でなければ、外国が購入を検討しませんからね。ただ、だからといって韓国が運用できるかと言ったらそれは又別の話でして(苦笑

      削除
  3. 木霊さん、まとめて頂いてとても勉強になりました。K-9 は重たく鈍足なのですが、フィンランドは恐らく凍土に車両用塹壕を掘り、例えばロシアとの前線に置くつもりなのでしょう。砲塔だけは自国製にすると思います。最初から固定砲塔を置くよりも機動性、安上がりですもんね。捨て放題、じゃない、捨て砲台がわりなのでは。バルト三国がロシアに侵攻された時点で、一両日中に国境戦術地点に配備出来る様に「無限軌道」付きの使い捨て砲台を輸入したんだと思います。フィンランドは賢いと、感じました。いかがでしょう?

    返信削除
    返信
    1. フィンランドはなかなか面白い兵器のセレクトをする傾向にあるようですね。

      フィンランドやトルコは個人的には「自国で開発する手間を省いた」という方向での選択である様に思います。
      ご指摘の戦略を採る可能性は高いでしょうし、砲自体はAS-90を流用する可能性は高いので、兵器としての信頼性もそこそこ。

      もともと、移動能力にはそれ程高い性能が求められませんし、砲が優秀であれば固定砲台に移動手段が付いた程度で問題無いわけで。

      この辺りはやはり各国それぞれの戦略次第と言ったところであると思います。

      削除

お気軽にコメントを!ハンドルネームは面倒でもお願いします。