小水力発電は日本の未来を切り拓くか?

このブログでは、小水力発電(マイクロ水力発電)は条件付きで推している。
だがしかし、物事に向き不向きがあるのは世の常である。当然、小水力発電にもそれはいえることであって、その辺りについて、本日は言及していきたい。

山村を消滅から救う「小水力発電」とは何か

身近な再生可能エネルギーの意外な可能性

2018年01月24日
私は長年、全国各地の再生可能エネルギーのサポート、コンサルティングを行ってきました。
その経験を通し、再生可能エネルギーの中でもとくに「小水力発電」が、山村(山間地)を救う起爆剤になると考えております。
こういった、小水力発電推しの記事を見かけることもある。
が、前の記事のコメントにも指摘頂いたように、あまり良くない印象をお持ちの方もお見えになると思う。問題点を理解されている方は、「小水力発電」=「バラ色」などとは考えないのだ。


そんなわけで、今日はそうした話を紹介していきたいと思う。先ずは、以前に説明した内容を紹介しておこう。
以前にもある程度紹介しているが、マイクロ水力発電、或いは小水力発電は、200kW未満の発電設備の事を指し、用水路や下水処理場、浄水場など、一年を通じてある程度の水量がある場所であれば、様々な場所に設置可能な発電方法である。
それなりに有望な発電手法だと目されている。


波田水車

ポイントは、「一年を通じてある程度の水量がある場所に設置する」という点だ。日本の河川は急峻で、流れが速いので発電に利用できるのだが、この特徴は一方で厄介な側面を含んでいる。「落差がある」「流れが速い」ということは、「土砂の堆積」や「草木などの異物の混入」などの可能性を排除出来ない。

従来型のダムを利用した水力発電であっても、定期的にダム堆砂の撤去が行われる必要があり、完成後40年以上経過したダムの半数近くは堆砂容量を失っていると言われている。ところが、運用中のダムの堆砂を撤去することは困難であり、今のところ積極的に行われてはいない。

こうした問題点は小水力発電にも当然に起こりうる。というか、顕著にその影響が現れると言っても良い。
尤も、ダムと異なり、飲料水に利用するという訳では無いので、対策は比較的容易ではある(ダムの水を抜きダム湖底を浚うというのは、ダム機能を停止し、更に水が汚濁するリスクもあって現実的には難しい)のだが、要はメンテナンスが必要という事である。それも、定期的に、頻繁に行う必要がある。

この辺りの問題を捉え、このブログでは自治体レベルで小水力発電を行い、行政が定期的にメンテナンスを行う責任を持ち、採算がとれなくとも運用可能、災害時にベース電力として期待ができる程度の運用であれば、「アリ」だと分析している。



小水力発電は、以前にも説明したが、イニシャルコストがそこそこかかることと、メンテナンスを定期的に行う必要がある。
また、利水権などの複雑な問題をクリアする必要があること。などの問題があり、一般企業にはハードルが高いのが現状である。

だから、自治体などが主体となって浄水場などに併設してやるならば、アリなんじゃ無いかな?と踏んでいる。

もちろん民間企業であっても、設置条件次第では採算はとれるのだろうが、あくまでサイドビジネス的な運用にしか向かないと思われるので、冒頭の記事にあるような「山村消滅を救う」ような救世主的な存在になるには、余程好条件が重なる必要があると思っている。

小水力発電の形式としては、河川に発電用の新たな取水堰を構築するほか、農業用水路や棚田などを利用したり、既存の砂防ダムを活かすこともできます。地域特性や経済性にあわせた方法を考えれば良いのです。
冒頭に紹介した記事の中では、何か片手間で発電できる美味しいビジネスみたいな印象を受けるが、実際にはそうは上手く行かない。
小水力発電は、全国の数千カ所で事業化の可能性があります。しかも今は、FIT(固定価格買取制度)がありますから安定的な売電収入が見込めます。
その上、あろう事かFit制度ありきの「安定的な売電収入」などと言っているのだから、大げさに言えば、詐欺師の手口に似たような印象すら受ける。

何故そんなことを言うのか、というと、前の記事でこんな報道を紹介した。
この記事では特に詳しく説明しなかったが、送電網というのは電力会社が構築したものであり、需要と供給のバランスを考えて構築されているインフラである。
地域の小水力発電程度であれば、吸収できるレベルの余裕はあるだろうが、確実性のある話では無い。「作ればOK」という発想には、「ちょっと待て」と言わざるを得ない。
だってそうだろう?日本は毎年台風がやってくる土地柄である。川が増水すれば小規模な水力発電所は損壊するリスクがあるのだ。そして、その確率はそれ程低くは無い。一方で、渇水期であればロクに発電できないということも考えられる。割と手間がかかる上に、発電規模は200kW未満と小規模だ。

利益に関しては、こんな記事を紹介しておく。

利益でっかく毎月400万円 ダム放流、ムダなく 「工夫でエコ、モデルケースに」 和歌山・有田川町

会員限定有料記事 毎日新聞2016年10月2日
 和歌山県有田川町が、既存のダムに新たに設置した小水力発電所が大きな成果を上げている。川の流量維持のためダムが常時放流している「維持放流水」を利用し、利益は毎月400万円近くに上る。
この事案では、最大で199kW、常時160kW程度の発電能力を持つ小水力発電の事例を示している。
計画では年間120万kWhの発電量が得られるという試算がされており、割と素性の良い発電方法であるとは思う。
ただし、イニシャルコストは2億8,623万円とあるのと、毎月400万円は利益では無く売却益だと思われるので、毎日新聞の記事では「7年で回収の見込み」と書かれているが、ちょっと怪しい。
実際に、サイトには、平成28年度の売電額が5000万円、平成29年度の売電額が4700万円程度とあるので、誤報だろう。実際に、別記事では年間4300万円と書かれていて若干目減りしている。更にこの費用には消耗品の部品等が含まれていない可能性があるので、実際にはもう少し目減りする可能性はある。

有田川町

だが、何にせよ「小水力発電の可能性」を感じさせる記事ではある。少なくとも、条件次第ではこの程度の発電能力が確保できるというわけだ。



だが、残念ながらこうした話は成功事例ばかりではない。
失敗事例はめったにニュースにならないが、トライして、そのうち消えて行くところも当然にあるのだ。

小水力発電の3つの課題-水利権、採算性、維持管理-

2013年08月14日 09時00分
 小水力発電は他の再生可能エネルギーと比べて、設備に必要なスペースが小さくて済む利点がある。横幅が1メートルしかない水路に発電設備を取り付けることも可能だ。小水力発電の対象になる場所は日本全国に膨大にあって、例えば東京都の江東区は公園の中を流れる水路で可能性を検証している。  環境省が地域別の中小水力発電(出力3万kW未満)の導入可能性を調べたところ、全国で合計2万カ所以上にのぼる設置対象地点を特定できた(図1)。ところが実際に発電設備を導入した件数は最近でもほとんど増えていない。
 2012年7月に始まった固定価格買取制度では、太陽光発電を中心に8カ月間で38万件以上の設備が認定を受けた。しかし中小水力発電は38件しかなく、そのうち小規模な200kW未満の発電設備でも25件にとどまっている。
この記事には失敗事例は紹介されていないが、そのことは示唆されている。


そして、意外にランニングコストがかかることも紹介されている。
設備費や維持管理費は、むしろ高い部類に入るのだ。

また、「送電網」に発電したエネルギーを乗せるという点にもハードルは高い。太陽光発電に比べて、小水力発電の方が変動が少ない分、質の良い電力を提供はできるが、基本的に電線の無いような場所にそうした施設を作らねばならず、送電網を伸ばしてもらうなどの交渉も必要になってくるのである。これはハードルが高い上に、長距離の電力輸送というのは、実は割に合わないので本来やるべきではない。

原子力発電所のような大規模発電が可能な場合であれば、長距離の電力輸送ということは考えても良いが、本来であれば電力を消費する地域の近くで発電すべきである。

もう1点、先ほど「未来を感じさせる」という事例として紹介した有田川町営二川小水力発電所ではあるが、実のところ、成功事例と紹介するには強い違和感はある。

ちょっと考えてみて欲しい。この小水力発電所はダムの放水を利用して発電を行っているのである。「使わないエネルギーの有効活用」と言える事例ではあるが、しかし、ダムの上に発電施設を置かせてもらい、ダムの中に羽根を設置させてもらっているはずだ。
本来であれば、この放水用の取水口は、水路が詰まらないように定期的にメンテナンスが必要だが、これはダムを管理する電力会社がやっているのだと思われる。
ダムの水位が減ってしまえば、取水口からの水は放出されなくなるか、或いは「下流域の環境維持のため」に放水しているので、水位が減っても同じ水量の水を放出するようなシステムになっているのかも知れない。
施行前施工後
この写真は説明サイトの「施行前」と「施工後」の状態である。水の位置エネルギーを取り出しているという事になるが、放水量はどちらも毎秒約690lだと説明されている。
そして、発電した電力は電力会社にFit制度を利用して高値で売りつけている。

言ってみれば、隣の家の人が「お宅の屋根を貸してください。太陽光発電をやりたいのです。でもシステムは、お宅の電力系統に繋げて、電力はお宅に売ります。売却益は私がもらいます。電力会社よりも高値で買って下さい。ああ、屋根の掃除は太陽光パネルが汚れてしまわないように定期的にしてくださいね。」と言っているようなものなのだ。

Fit制度が終了すれば売値は半額以下に下がることになるだろう。そんな状況で果たして、有田川町は再びシステムを更新するために再び費用を捻出するだろうか?
100%電力会社の好意に甘えるような運営実態をどう見るか、なのだが、こうした利益は電気料金から徴収されることを考えると、なにかこうちょっと考えてしまう。




とまあ、色々紹介したが、200kWの発電能力があれば、一般家庭で300世帯くらいの電力を賄える計算になる。
つまり、災害時に独立した発電所として機能するのであれば、災害復旧までの発電インフラとして公共施設を稼働する目的で使用するのはアリだと思う。ただ、地域レベルで運用する場合は、ネットワークの構築と、独自で潮流制御などを考えなければならないので、電力会社の協力は不可欠になる。
そうだとすると、はやり地方自治体の行政レベルで動くより他に無いのだ。

途中で説明した「スマートジャパンの記事」には、こんな説明がある。

maintenance_nagano

馬曲川水力発電所という、長野県の木島平村で運営されている発電所の、メンテナンス実態が紹介されているのだが、毎日2回ほどの確認作業が行われている。
たいした手間では無いが、それなりの知識を持った職員が確実に点検をする必要があり(リタイアした職員に嘱託という形でお願いするのが良いと思う)、地域インフラとして利用運営するという意識をしっかり持つ必要があるのだ。

儲けが出るのはオマケ程度で、本来は災害発生時の地域インフラ、という位置づけで設置するのであれば、僕には小水力発電を推進する意味はあると思う。
ただ、続けられなければ意味は無いし、回収可能なエネルギーはあちらこちらにあるのも事実だ。そうした意識をしっかり持つことこそが、重要なのだと思う。



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コメント

  1. いや、木霊様の面目躍如というか冷静にして簡潔で正しい技術解説でした。感服いたしたでござる。
    全てがバラ色オカルトな訳ではなく、きちんとメンテナンスして運営すれば、それなりの成果を出すこともあると。
    ただ収益に幻想すんなよと。
    そしてきちんと手間を「解る奴」がかけないとダメだかんなと。これですよこれ!
    こういう場合と前提する条件を
    case事の分析すべきですよね?
    科学なんだから!
    それを、どこでもドアみたく、どこでもOKな万能薬みたく主張するからエコ技術は詐欺師の疑似科学みたく思われるんですよ。こういう記事なんです。
    社会に必要とそれるのは!
    日本語って構造がユルいので、
    Iで主語たててbe動詞でツナいで目的語を…な厳密さに乏しい。文法がテキトーでも意味が受け取れる良さでもあるんですけれども。
    だからかなぁ、文系出身者が科学技術解説すると、
    このケースはこうで、その前提にはこういう条件が必要で、
    それを満たせないとこうなる。
    そういうですね、理系の論文のような証明精度に劣るんすね。
    そこに「願望」が混じるから。
    科学の専門教育を受けてない文系人は、科学解説を書くときに木霊様の記事を写経してから書けと思いますね。
    科学は文学じゃないんで、叙情と願望で語られても困るんですね。

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    返信
    1. あまり持ち上げられると困ってしまいますが、マイクロ水力発電、小水力発電については、使い処さえしっかり考えれば、それなりの意味がある施設になるのだと思います。

      有田川町営二川小水力発電所に関しては、少々批判的な取りあげ方をしてはいますが、しかし、電力会社がこれを「OK」といっていれば、合意が形成されているのであれば、これ程美味しい話も珍しいわけです。使わない手はありません。

      ご紹介までに、という話ではありますけどね。

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  2. この小規模発電、風力でも問題になることがありますが低周波ノイズによる健康被害問題がも言われたりしてそういいものではないという印象です。
    正直、簡易な組み立てキットでも用意しておいて災害時に使う、ならわかるんですが常用は向かないと思ってます。

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    1. すみませんが、小水力発電に関する低周波ノイズの顕著な影響という話は寡聞にして知りません。
      ただ、低周波振動による影響は、機械設備で可動部があれば、多かれ少なかれあります。モーターのような回転体を使う場合には、低周波振動が発生してしまうのは避けられません。これを設計によって影響低減しようというのが設備設計のキモなのですが、小水力発電施設のように、あまり施設にお金を使えない性質のものですと、杜撰な結果になる、なんて話はあるのでしょう。

      とまあ、低周波に関する話に関しては、その様に感じる次第。ただ、小水力発電に関する低周波に関する文献が何かあれば紹介頂けると有り難いです。僕の方でも、もう少しそうした観点で探してみたいと思いますが。

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    2. 余り根拠なく、テレビ等での話のうろ覚えで書いたのでちょっと調べてみました。
      https://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h27/120-1504b.pdf

      環境によって注意という程度の但し書きはありますが、それほど大きな問題にもならなそうですね。お目汚し、失礼しました。

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    3. ありがとうございました。
      これ、環境省の調査なんですね。
      確かに、小水力発電は開放型の発電手法なので、確かに低周波ノイズなどの発生も懸念されるのでしょう。そして、省庁が動いたと言うことはそれなりの理由があったわけで。

      健康被害まで生じうる話になるか、という所までは検証していないようですが、「作る時は気をつけてね」的な話なのかも知れませんね。

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